減塩モデル
市町村インタビュー

INTERVIEW

山ノ内町

減塩という言葉は以前からよく耳にしますが、町として積極的に取り組むこととなったきっかけはあったのでしょうか。

平成25年~29年の5年間の65歳未満男性の脳出血のSMR(標準化死亡比)※が県内1位であり、その背景に高血圧がありました。また平成28年度の特定健診結果から高血圧Ⅱ度※以上の割合が県内同規模市町村比較でトップでした。当町では、高血圧を町の健康課題として発症・重症化予防に取り組んできましたが、個別の保健指導などのハイリスクアプローチに加えて、高血圧を予防する生活習慣を啓発するポピュレーションアプローチも必要だと考えました。

高血圧治療ガイドラインでは、生活習慣の改善の1番目に「減塩」が書かれています。当町でも、これまで薄味を心掛けるなどの減塩学習をし、毎年保健補導員さん全員に尿中塩分測定を実施してきました。しかし減塩プロジェクトをスタートさせた前年の平成29年度の尿中塩分測定の平均値が10.1gで、平成28年の国民健康・栄養調査における長野県女性(全国1位)と同値でした。この結果は、ほとんどが「自分は減塩に心掛けている」と考えていた保健補導員さんの意識と離れたものでした。

そこで新しい減塩が必要だと考え平成30年度の健康づくり講演会に高血圧学会減塩・栄養委員会アドバイザーの方を講師にご講演をいただきました。その時に、JSH減塩食品※をご紹介いただき、展示や試食も行いました。また、その中で減塩のための食環境整備についてご提案いただき、減塩プロジェクトをスタートさせるきっかけとなりました。

※SMR(標準化死亡比)…人口構成の違いを除去して死亡率を比較するための指標です。ある集団の死亡率が、基準となる集団と比べてどのくらい高いかを示します。
※JSH減塩食品…特定非営利法人日本高血圧学会減塩委員会がホームページ上で掲載している減塩食品のことです。
※成人における血圧値の分類(mmHg)

事業初年度は何から着手したのでしょうか。

本格的にプロジェクトがスタートしたのは、令和元年度からです。平成30年度の講演会には、小売店や飲食店、ホテル・旅館関係など町の食環境に関わる方にも声をかけました。講演会に来てくださった志賀高原プリンスホテルさんにご協力いただき、4月に減塩バイキングを開催しました。ここでは、町の食環境に関わる方約100名に参加いただき、23社52種類のJSH減塩食品※を試食しました。減塩は美味しくないというイメージが払拭され、減塩食品を使ってみたい、身近に買えるようにしてほしいという意見が出されました。

そこで道の駅で減塩食品の販売をスタートしました。7月のスタート時には減塩フェアを開催し、食生活改善推進員さんのご協力で試食や減塩食品の販売を行いました。減塩食品の普及のため、健診結果報告会で全員に減塩せんべいの試食を配りました。また高血圧Ⅰ度以上の方には、減塩醤油の配布もしています。

9月には、減塩バイキングにご協力いただいた志賀高原プリンスホテルさんで減塩かつ1食のバランスのとれたメニューを開発し、県内初の外食部門でスマートミール※認証を取得しました。

また、子どもの頃から減塩を意識づけていくため、3歳児健診で尿中塩分測定を導入しました。

※スマートミール…健康に資する要素を含む栄養バランスのとれた食事の通称です。スマートミールの基準は,厚生労働省の「生活習慣病予防その他の健康増進を目的として提供する食事の目安」(平成 27 年9月)や食事摂取基準2015年版を基本として決めています。

厚生労働省で示された食塩摂取量の基準は一日当たり男性7.5g未満、女性6.5g未満とされており、摂取量の多い長野県では8gを下回ることを目標としていると思います。
山ノ内町では減塩事業開始以前の食塩摂取量はどのくらいでしたか?

保健補導員さんに行っている尿中塩分測定結果で、事業スタート前の平成29年は平均値10.1gでした。まずは県平均を下回ることを目標とし、事業を推進した結果、平成30年度9.7g、令和元年度・2年度は9.5gと徐々に減少しており、令和元年度は県平均9.8gを下回りました。

減塩事業に取り組んで、結果はどのように変化していますか?

上記のとおり、尿中塩分測定の平均値は微減傾向にあります。また、血圧の状況については高血圧Ⅱ度以上の割合は、平成28年度5.2%(市町村平均4.2%)から令和元年度4.3%(市町村平均4.5%)と減少しています。

減塩に関するイベントはどのような反響でしたか?

減塩バイキングでは、減塩=美味しくないというイメージが変わったという感想や、減塩食品の種類の多さに驚いたという声、どこで買えるのかという声が多く聞かれました。減塩フェアの試食でも、筑前煮の食べ比べを行い、普通の醤油で作ったものと、減塩醤油で作ったものと味に変わりがないと感じた方が多くいました。講演会やバイキングに参加した方で健康ポイントカードを持って買いにきてくださった方もいました。

「減塩協力店」と「健康ポイント制度」について教えてください。

健康ポイントは町民の健康づくりを応援する取組としてスタートしました。特定健診(住民健診)の受診を必須として、その他がん検診・歯科検診や健康に関する取組に応じてポイントを付与し、100ポイント貯まると600円分の利用券に交換するという内容です。健康に関する取組として、希望者に実施している尿中塩分測定の受診や減塩食品の購入でもポイントを付与しています。

利用券の利用先の一つとして、町内の減塩協力店(7店)で減塩食品を含む買い物や、減塩メニュー購入に利用できます。また100ポイント貯まった方には二次チャンスとして、30人に抽選で減塩食品などの商品をプレゼントしており、当たった方には喜ばれています。

減塩食品はどのような方におすすめしたいでしょうか。
また、使い方のポイントがあれば教えてください。

(心疾患・腎疾患等で医師に相談が必要な方を除き)すべての方におすすめしたいです。最近では、食塩感受性高血圧の機序も明らかになってきており、肥満や食塩摂取の多い人では腎臓でのナトリウムの再吸収が多くなってしまい、一部の降圧薬が効きにくくなることも分かってきました。ですから、現在血圧が高くない人・高血圧で内服中の人も高血圧の発症・重症化予防として減塩に心掛けることは重要です。

また県民健康・栄養調査の結果から長野県の食塩摂取のうち6割(67.5%)は調味料が占めています。まずは調味料を変えるだけでも減塩になると思います。実際減塩のお醤油を使っていただくと、減塩と感じないという方が多く、調味料を変えるだけでも気づかないうちに減塩ができます。気づかないうちに、というのがポイントだと思います。

小さいお子様をお持ちの世代にも減塩意識の向上を図っているようですが、子どもの食における減塩のポイントはどのようなことでしょうか。

当町では、令和元年度から3歳児健診で尿中塩分測定を実施していますが、9割のお子さんが基準値以上の結果でした。3歳児では、いろいろなものが食べれるようになり、家族と同じ食事になってきていることから、ご家庭の食事を見直していただくきっかけにしています。

令和2年度からは2歳児健診で保護者の尿中塩分測定を実施しています。食品展示なども行って、普段どんな食品から食塩を摂っているか考えていただいています。また、大人に比べて子どもの腎臓は未熟であり、大人と子どもで基準量が違う根拠を理解していただき、納得して減塩に心掛けていただくよう働きかけています。

さらに減塩を進めるために、お考えになっていることはありますか。

減塩メニューなどを提供する減塩協力店をさらに増やしていきたいと考えています。地域でよく食べられている食事などで減塩食品を活用したレシピを紹介するなどもしていきたいと思います。

減塩をしようと思うきっかけとして、尿中塩分測定の結果で基準より多く驚いたという人や血圧が気になって減塩を意識し始めた人が多く、単に減塩しましょうということだけでなく、自分のからだのことが分かることで意識が変わると思うので、個別の保健指導や集団での健康学習の機会を大事にしていきたいと思います。

視聴者へのアドバイスとして、食生活で注意すべき点をアドバイスいただけますか?

減塩についてのアドバイスでは、取り組みやすい減塩の第1歩として、調味料を減塩食品に変えてみることをおすすめします。また、食塩相当量の表示が義務化されましたので、よく使う食品の表示を確認してみることも加工食品など目に見えない食塩をどのくらい摂っているのかの目安として有効だと思います。

山ノ内町