減塩モデル
市町村インタビュー
INTERVIEW
そもそもなぜ減塩が必要なのでしょうか。
塩は小腸から血液に入り、体の中の水分を常に0.9%のナトリウム濃度で保っています。また、細胞が動けるように電気を起こし、筋肉を動かしたり情報を伝達するなど、大事な働きをしています。
しかし、意外にも必要な量はごく僅かで一日に3g程度摂っていれば大丈夫なんだそうです。
というのも、資料中Ⓐ【進化の歴史で考えると】をご覧いただくと、海の中で生きていた生物が陸上で生活するには、体の中に水をためておくことが必要になります。そこで、3gの塩でも生きていけるように腎臓が大事な塩分や水分を捨て過ぎないようにするホルモンを獲得しました。
しかし、現在は身のまわりには塩がたくさんあります。大事な塩分や水分を捨てない仕組みが仇となりました。
塩辛いものをたくさん食べるとお茶や水が飲みたくなりますよね。たくさんの塩分や水分を摂ると、血液量が増えるため、心臓は一生懸命働き、腎臓から余分な水分と塩分を捨てようと頑張ります。腎臓が元気なうちはいいのですが、過重労働が続き腎臓の働きが悪くなると上手く余分な塩分や水分を捨てられず、血液量が増え血管にかかる圧が高くなります。
ここで、血圧を水圧にするとどのくらいかこちらの資料をみてください。血圧は腕の上腕で測りますが、上腕の血管は直径約8㎜で鉛筆くらいの太さです。上の血圧(収縮期血圧)が正常の120でも血管の内側には1m63㎝先まで水を飛ばせる圧がかかっています。もし、血圧が180あったら、2m45㎝先まで水を飛ばせる圧がかかっていることになります。その差は約80㎝にもなります。それがたった8㎜の血管の内側に常にかかっていたら?血管は傷つき、修復を繰り返すうちに硬くなり動脈硬化が進んでいきます。
気が付かないうちに血管が傷んでいくというのは怖いですね。
そうですね。先ほど血管や腎臓への負担について申し上げましたが、高血圧は動脈硬化、脳卒中、心臓病などの病気に繋がる危険があることは皆さんご存じだと思います。
血圧が高くても動脈硬化が起きていても血管には痛みを感じる知覚神経が無いため、自覚症状が出た時は脳出血や虚血性心疾患、腎不全など、深刻な状況になっていることもあります。
厚生労働省で示された食塩摂取量の基準は一日当たり男性7.5g未満、女性6.5g未満とされており、摂取量の多い長野県では8gを下回ることを目標としていると思います。池田町では減塩事業開始以前の食塩摂取量はどのくらいでしたか?
平成30年度から町の集団健康診査時にご提出いただく尿を使って、どのくらいの塩分を摂っているのかをみる検査を導入しました。平成30年度の状況では男性の平均が9.9g、女性の平均が9.4gという結果でした。国の食塩摂取量の基準より男女共に2g~3g多いことが分かりました。
減塩事業に取り組んで、結果はどのように変化していますか?
こちらの資料をご覧ください。平成30年度から令和2年度の3年間の結果です。
事業を始めて2年間の比較ではほぼ変化がありませんでしたが、昨年度は男性9.4g、女性は8.8gとこれまでよりも減少しました。
また、高血圧の治療をしている人で、3年間の変化をみたところ塩分摂取量が11g以上だった人の割合が平成30年度は男女共に50%以上でしたが、令和2年度には男性39.4%、女性28.7%へと減少しています。どのくらい塩分を摂っているのか数値で確認することで、皆さん気を付けられたと思います。
2019年には町長が減塩に取り組むことを宣言されたとか。
「人生100年 健診・減塩から健幸生き活き長寿宣言の町」と宣言しました。
住民の方から、「しょっぱくないと美味しくない」「薄味はまずい」という声を聞いていましたので、まずは「減塩=おいしくない」 というイメージを払拭しないと減塩が進まないと考え、減塩食品を使った料理の試食会を開催しました。
減塩食品を使った試食会とは、どのように開催しているのですか。
試食会は令和元年に実施しましたが、その後は新型コロナウイルス感染症拡大防止のためイベント関係は実施していません。お店にはたくさんの減塩商品が並んでいますし、減塩と分からないくらい塩味を感じるものもありますので、減塩商品と通常の商品を食べ比べていただきました。
メニューは、日本高血圧学会減塩・栄養委員会のホームページで紹介されている減塩醤油と地元の醤油を半量ずつ使った炊き込みご飯と煮物、減塩商品のみを使ったコンソメスープと浅漬けを食べ比べていただきました。結果は減塩でも十分美味しいという評価でした。また、減塩商品は苦手という方のために、スプレータイプの醤油さしの体験をしていただき、かける量を減らす方法で減塩できることをお伝えしました。
減塩を住民の方に働きかけるときに心がけていることや意識していることを教えてください。
まずは、実態を知っていただくことだと思います。
普段から塩分の摂り方に気を付けているつもりでも、意外と塩分が多かったりします。
検査をしてどのくらい摂っているのか数値を知ること、そしてご自分の健診結果と合わせてみることで、住民の方自身が生活を振り返り、改善できそうなことを探します。一方的に「塩分を減らしましょう」というのではなく、どうすればいいのかを一緒に考えるようにしています。
取り組みやすい減塩の方法を教えてください。
私たちは1日に摂っている塩分の約7割を調味料から摂っていますので、調味料の量を少し減らしたり、替えてみるとよいと思います。例えば、汁物は野菜をたくさん入れていただくと、同じ味付けでも飲む汁の量が減ることで減塩できます。また、野菜の中のカリウムが腎臓から塩分の排泄の手助けをしてくれます。この方法は腎機能が低下している方にはお勧めできませんが、腎機能が正常の方には、野菜のビタミンやミネラル、食物繊維も摂れるのでお勧めです。
減塩調味料の利用もお勧めです。味覚の衰退で塩味が感じにくくなっている場合は、減塩調味料を活用するのも一つの方法だと思います。その際は、慣れるまで減塩商品と通常の商品と半量ずつ使うことで違和感なく減塩ができると思います。
視聴者へのアドバイスとして、食生活で注意すべき点をアドバイスいただけますか?
一般的には天然だしを使って美味しいだしの風味で減塩したり、レモンや紫蘇などの香味野菜や、カレー粉などの香辛料で減塩するとよいと思いますが、現在は自宅で料理を作らなくてもお惣菜や冷凍食品など手軽に食べられる食品があふれています。購入の際は是非、栄養成分表示をご覧になってください。1袋の中にどのくらいの塩分が入っているか書いてありますので、「食塩相当量」が少ないものを選択するのも一つの方法です。あと、減塩にしてもたくさん食べれば塩分も多く摂ってしまいますので、腹八分目を心がけることも大切だと思います。